オフィスは暗黙知の継承を加速し、若手の成長曲線を一段押し上げる。
現場の空気感、視線の配り方、間の取り方といった言語化しにくいスキルは、隣で働くことで最短距離で吸収できます。知識創造のSECIモデルが示す通り、観察や雑談、横目学習が「社会化」を促し、手順書に落ちないコツが自然と言語化されます。日本の高コンテクスト文化ではこの「あうんの呼吸」こそが品質や安全の土台になり、レビューや相談の往復回数も目に見えて減ります。その結果、オンボーディングの摩擦が小さくなり、チーム全体の実行速度が上がります。
対面の場は発想の広がりと化学反応を生み、イノベーションの種を増やす。
同じ空間でホワイトボードを囲み、身振り手振りや表情を交えて議論すると、アイデアは枝分かれしやすく飛距離も出ます。実験研究でも、ビデオ越しのブレインストーミングは対面よりアイデア数が有意に少なくなることが示され、視野の狭まりが創造性を抑制することが指摘されています。オフィスでは偶然の立ち話や他部署の掲示が刺激となり、予定調和ではない発見が日常的に起きます。「予定外の一言」が企画の質を底上げする、この偶発性は物理的な共在でこそ最大化されます。
オフィス勤務は「終わりの鐘」を取り戻し、燃え尽きを防ぐ。
NBERの2020年研究は、在宅化初期に平均勤務時間が1日あたり約48.5分延び、会議時間も増えたことを示しました。家が職場になると境界がにじみ、常時接続の疲労が積み上がりやすいのは日本の労働文化では特にリスクです。オフィスには通勤という切り替え儀式やフロアの消灯・同僚の退席といった「終業の合図」があり、集中と休息のリズムを整えてくれます。働くときは集中し、終えたらしっかり離れる——そのメリハリが長期の生産性と生活の質を守ります。
同じ場にいることで意思決定が速く、チームの信頼が厚くなる。
30秒の席間確認で済むことが、チャットのラグと読み違いで30分会議に膨らむ——このムダを対面は根本から減らします。うなずきや沈黙の意味、声色の変化といった非言語情報が誤解を未然に解き、摩擦を小さくしたまま合意に至れます。日本的な合意形成では「根回し」や温度感の摺り合わせが重要で、オフィスはこれを透明かつ迅速に行うための安全地帯です。小さな信頼の積み重ねが心理的安全性を高め、結果として挑戦の回数と成果の質が上がります。